人工膝関節手術とは
変形性膝関節症が関節リウマチなどで損傷した関節の表面を切除して人工の関節に置換する手術です。人工膝関節は膝関節全体を人工のものに置き換える人工膝関節手術(TKA)と膝の痛んでる側だけを置き換える単顆置換術(UKA)があります。
市中病院でも一般的に行われている標準的な手術法です。当院ではその中でもより良い結果を得るべく、いろいろな工夫を凝らしております。
患者様の状態に合わせた手術を選択
これまで日本ではPSタイプ(後十字靭帯切離型)が主流でしたが靭帯を温存するCRタイプ(後十字靭帯温存型)も多く行われるようになってきており最近では前十字靭帯さえも温存するタイプが日本にも導入されました(まだ十分な成績はでていません)。靭帯を残すことにより歩行時の膝の安定性などの従来に近い機能が残せると言われております。
当院では、変形が著明であり可動域に制限がある症例についてはPSタイプ(後十字靭帯切離型)を比較的変形の少ない可動域制限の少ない症例についてはCRタイプ(後十字靭帯温存型)を行うようにしています。
また関節破壊の程度が少ない場合、すべての靭帯を温存させて関節の半分だけを手術する単顆式人工膝関節置換術(UKA)を選択することもあります。
このような方針により患者様の状態に合わせた手術を選択します。
人工膝関節三次元術前計画システム
また当クリニックでは術前にCTのデーターをもとに、術前の膝関節の正確な3D画像を作成し、人工膝関節の立体的データと骨のデータをコンピューター上で重ね合わせるシステムも導入しています。
それにより患者様に最も適した人工関節の種類とサイズを術前に決定できます。その結果、手術時間の短縮と余分な骨の切除を回避することが可能となり人工関節の角度設置不良、術中骨折、オーバーサイズ設置などのリスクも最小限にすることができます。(本システムを導入しているクリニックは全国でも現在のところ少数です。)
両側同時手術
両方の膝が悪い場合に片方だけ手術を行うと、もう片方の膝が痛いため、術後の日常生活における活動性は思うように回復しないことがあります。また手術を二度行うよりも一度で両方を行うほうが、患者さんの負担は経済的にも精神的にもが少なくなります。
ただ両側同時に行う場合、出血量など侵襲が大きくなり、体への負担が大きくなります。
当クリニックでは、患者様の年齢、体力や合併症を考慮させて頂き希望があれば両側同時手術を検討させていただきます。
手術機種について
最新のインプラント
zimmer社personaいう最新機種を主に使用しております。特徴は、インプラントの形状がより解剖学的に再現されていることです。他の機種では通常脛骨内顆と外顆で対称な形状をしていますが、personaでは非対称です。これにより脛骨コンポーネントの適切な回旋設置、高い被覆率を獲得することが可能となります。また、同サイズでスタンダードとナローが選択できる大腿骨コンポーネントによりインプラントのオーバーサイズとそれに伴う疼痛を防止できます。
合併症対策について
感染症
人工関節に細菌が侵入する合併症でその発生頻度は1〜3%と報告されています。
人工関節が術後感染症を来すと多くの場合、再手術を必要とします。予防策として当院では手術はクリーンルームと言われる空気中の細菌が極力少なくなるよう造られた部屋で行っております。
手術の縫合に使用する糸はすべて細菌感染に有効とされるモノフィラメントの抗菌糸を使用しています。(材料費の面で少しコストが高くなりますが患者様側のコスト負担はありません)
さらに感染の既往のある方や糖尿病やリウマチなどもともと感染リスクの高い方については術前術後に通常使用される抗生剤とは別に耐性の強い菌に対する抗生剤を追加で使用します。
術後創部に痛み、腫れ、熱感などの異常を感じたらすぐに電話にて連絡をいただき受診をしていただくこととしております。当院での感染率は現在のところ307例中0例 0%です。
深部静脈血栓症、肺梗塞
手術中、手術後は下肢をあまり動かせないため特に下腿部の静脈血流がうっ滞し血管内に血栓(血のかたまり)ができやすい状態となります。この血栓が大きくなり血流にのり肺の血管に詰まると肺梗塞という状態となり呼吸不全といった急変状態を来すことがあります。
予防策として手術後には血栓予防のストッキングやフットポンプ(空気ポンプで足を揉む装置)を装着して頂いており術後より積極的に足先を動かすようなリハビリも行います。また血栓ができにくくなる薬を術後2日目より7日間ほど服用していただいております。
さらに今年度よりの取り組みとして術後1週間目に血栓ができた際に上がる血液マーカーを測定させていただいております。現在のところ当院で確認された肺塞栓症はありません。
出血
術中術後には特に骨を切った部位などより出血が必ず生じ、出血量が多いと輸血の必要性もでてきます。
手術中は大腿部に駆血帯を巻き手術していますので手術中の出血は100cc以下となります。当院では術後の出血対策として膝関節内へも止血剤を注入し出血量の低減をおこなっています。
リハビリについて
当院では、地域の方がリハビリ目的に転院することなく当院だけで治療が完了するよう、十分な入院期間をとっています。(通常急性期病院では手術後1〜2週間で転院となることが多いですが)その分、手術した医師の管理下の元、ひとりひとり合ったオーダーメイドなリハビリが可能になると考えております。スタッフも人工関節リハビリに経験の深い理学療法士が揃っており懇切丁寧なリハビリを心掛けております。
TKA 患者さん術前・術後(1)
TKA 患者さん術前・術後(2)
人工股関節手術とは
股関節の変性や変形が強くなり、歩行時などに痛みが強く出てくるようになった場合、主に適応になってくる手術です。変形性股関節症や関節リウマチ、大腿骨頭壊死症の方などに本邦では年間6万件もの方にされている一般的な手術です。
痛んだ大腿骨頭を切除して髄腔内に、チタン合金でできたステムと言われるインプラントをを大腿骨側に設置します。一方、骨盤側の寛骨臼といわれる窪みの部分を削って掘り込み半円状のカップを設置します。ステムに装着した人工の骨頭をこのカップにはめ込むことによって関節の動きもスムーズになり、歩行の際の痛みも軽減します。
人工股関節インプラントの開発は現在も進んでおり、耐用年数も伸びています。
当クリニックで行っている人工股関節手術の種類
人工股関節の手術時間は症例によっても異なりますがだいたい2時間前後です。
術後は理学療法士などと連携し、歩行訓練を進めていきます。手術後の経過にもよりますが、概ね3〜4週間で退院となります。
退院後は、定期的に外来受診して頂き、レントゲン検査など経過観察します。通常、術後は徐々に普段通りの生活が送れるようになり、水泳やゴルフ、旅行、サイクリングなども楽しむことが出来ます。(コンタクトスポーツなど激しい運動は人工股関節に負荷がかかるので担当医にご相談ください)
当クリニックでは
患者様は一人一人、年齢・体格・活動度・骨の強度など全てが違います。
しかし、全ての患者様に同じ機種の人工関節を使用したり、同じ手術方法で手術が行われることが多いです。また現在では最小侵襲手術:エム・アイ・エスという筋肉や腱をできるだけ損傷しない手術方法が多くの施設で取り入れられておりますが患者様の体格や骨質によっては術中骨折やインプラントの設置不良などの合併症が起こりやすくなります。当クリニックでは手術の完成度と安全性を両立させ患者様の満足度を高めるために次のようなとり組みをしています。
1)3次元ソフトを使用した詳細な術前計画
当クリニックでは人工膝関節同様、術前の患者様の骨のCTデータをコンピューター上で3Dで構築し、人工股関節の立体的データと重ね合わせる術前のプランニングを行うシステムを導入しています。
それにより患者様に最適な人工股関節の種類とサイズを術前に決定できます。その結果、手術の進行がやりやすくなり人工関節の設置角度不良やサイズ不良などのリスクを最小限にすることができます。(以前はトレーシングペーパーに平面的に作図して人工股関節の術前計画を立てていました)
2)患者様に合わせた機種選択
人工股関節の部品を骨に固定する方法として骨セメントと呼ばれる樹脂を用いる方法(セメント人工股関節)と、骨セメントを使用せず、金属表面を加工し骨へ直接固定する方法(セメントレス人工股関節)があります。患者様の年齢や、活動性、骨の質などにより⻑期には成績に影響が出るとされています。それぞれの方法には⻑所・短所がありますので患者様の状態に応じた方法を選択させて頂きます。(たとえば骨質の悪いご高齢の方やリウマチの方にはセメント人工関節を骨質のよい比較的若年の方にはセメントレス人工関節といった選択になります)
肩人工関節の新しい手術リバース型人工肩関節置換術
1986年頃よりフランスで開発され、腱板機能修復不能な患者様に使用されてきた「リバース型人工肩関節置換術(RSA)」は、日本では2014年4月に認可となりました。リバース型は日本整形外科学会の定めるガイドラインに既定された症例数を満たした医師にしか執刀できない手術です。肩の手術経験が累計100例以上、50例以上の腱板手術を行っている、日本整形外科学会の定める講習会を受講しているなど、日本整形外科学会の定めるガイドラインに既定された要件を満たした医師にしか執刀できない高度な治療法で、当院はRSA認定病院です。肩の挙上が困難とお悩みの方はご相談下さい。
新技術のリバース型人工肩関節置換術(ReverseShoulderArthroplasty:RSA)と従来型の全人工肩関節置換術(TotalShoulderArthroplasty:TSA)との違い
変形性肩関節症や関節リウマチによって肩の挙上が困難となった患者様には、肩関節そのものを人工物に換える「全人工肩関節置換術(TSA)」という手術が施行されてきました。
しかし腱板機能が温存されている事が前提条件でした。RSAでは、肩の回転の中心を本来の位置よりも下側に位置させ、三角筋のレバーアームを⻑くし緊張を与えることにより、三角筋の力だけで肩を挙上することを可能としました。リバース型人工肩関節では、腱板の力がなくとも三角筋の力で挙上が可能となり、関節の安定化と挙上動作の改善が期待できます。
手術適応には
手術適応には「原則70歳以上」で「他の筋肉は問題ないのに、腱板断裂によって肩の構造が壊れてしまい、肩が上がらない状態」、そしてレントゲン上で「関節に変形が見受けられる状態」のときというのが基準として定められています。術後は、リバース型人工肩関節の場合、装具固定が約2-3週間必要ですが,その後、約3〜6ヶ月間のリハビリテーションで日常生活での支障は概ねなくなります。