空想する箱 TS-990(松山市医師会報26年6月号)

空想する箱

Kenwood TS-990S

面白いたとえがあって、アマチュア無線を愉しむ無線家が、畑に空中線を張り巡らしたところ、隣の畑のすいかよりとっても甘く収穫できた。クリニックの上にアンテナを張り巡らすと果たして、空中から元気がもらえるのか?そんなロマンチックな妄想をいだきつつDX(海外との通信)を愉しんでいます。

携帯、インターネットのハイテクなご時世になぜ、無線?「院長は、盗聴をはじめたぞ」とスタッフにいじられながらも無線機に向かっているのですが、何が楽しいのか? 釣り好きの人は、海にロマンを感じるごとく、アマチュア無線家は空中に想いを馳せています。プロパゲーション(空中伝搬)は、季節時間帯によって刻々と変わる電離層に従い変わるので深夜明け方のパス(伝搬経路)を見込んで通信にトライします。インターネットでスカイプで海外とすぐアクセス出来るのではなく、釣り人のごとく、天空を見上げげアフリカやカリブに八木アンテナ向けて繋がるかな?ドキドキ感満載で空中散歩します。

登山家が山の頂を遠くながめるように、松山平野30度斜め上(八木アンテナのうちあげ角)の稜線を通過し電離層反射をくりかえしやっとこさアフリカやカリブ海の声が聞こえる。その海外局を比較的大きい声で(地声は小さいのですが(笑))呼んでみる。マイコールサイン(呼び出し符号)が、海外局からリターンされると繋がった!電磁波もほぼ光速で地球を円周していくので世界同時性を想起できるのです。

アマチュア無線はあくまで技術的な通信実験であり、ただ定型の数十秒のQSO(交信)でも世界と繋がった感はさらなる無線機技術や空中線技術のひるみない創意工夫に相乗して高揚していくのです。「すすめ!電波少年」とか昔テレビ番組のタイトルもありましたが(笑)日本の電気通信技術を支えて来たエンジニアも中学高校でハム(アマチュア無線)をやっていた人が多いようです。携帯800Mhzといった極超短波に進化する前の長波(ラジオ波)や短波帯のアマチュア無線家のたゆみない創意工夫がエレクトロニクス社会の礎となった事を感じます。世界をリードする日本人の巧緻で繊細なプロダクティビティのひとつがエレクトロニクスとするなれば、このアマチュア無線機 Kenwood TS-990Sはその集大成ともいえる一品です。インターネットの普及にも関わらずアメリカや欧米では密かなアマチュア無線ブームが訪れています。残念ながら日本では140万と言われた昭和のアマチュア無線プームは過ぎ去り、逆に海外からの無線機の評価はナンバーワンで、海外の無線家にリグの紹介をすれば必ずレスペクトされます。小学校で初めてコールサインをもらって電波を出したのがTRIO(Kenwoodの前身)TS-520Xという往年の名機でした。高校から医学を志し電気物理学とは疎遠な30年を経て、再び名機に巡り会えました。お酒とスモーキングで脳動脈硬化していくのを阻止するチャレンジの一貫として昨年4月に(院内お花見を中止してまで)上級のアマチュア無線の国家試験を受け、大脳皮質の引き出しの片隅の電気物理の公式を思い出して来たばかりですが、このリグ(無線機)いう箱体の中にひしめくダイオードやコンデンサを妄想しています。(笑)もったいないのでもう少し使いこなしたら、ドライバーでシャーシを空けてで中身を探検したいと思っています。

奇しくもリウマチ関節外科を生業とする上での、無線にはまるのでなく生業へのヒントとして、屋上のアンテナ工事は整形外科手術で、無線機の中身は生物学的製剤をはじめ内科的診断治療でしょうか?(笑)

 

(松山市医師会報 26年−6月号投稿)

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